連続講座『「盛り」の誕生 ー女の子のビジュアルとテクノロジーの平成史ー』第1回~(4)ギャルの美意識と「粋」


2019年4月17日(水)に開催した、連続講座「『盛り』の誕生 ー女の子のビジュアルとテクノロジーの平成史ー 第1回」の記録を、4回にわたって紹介しています。ゲストの古田奈々恵さん、荒井悠介さんにお話をうかがいました(プロフィール)。

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■世界の果てにも「巻き髪」と「ヒール」

久保友香(以下、久保) お二人は当時のご友人達と旅行に行かれると聞きました。

荒井悠介(以下、荒井) はい、同じ系列の仲間で4人ほどの仲の良いグループがいて、もう十何年と日帰りで遊びに行っています。この「盛り」旅行の際にも、皆で研究するんです。どうしたら写真が盛れるかと。

古田奈々恵(以下、古田) 朝9時に集合して行きます。

久保 早いですね。どちらかというと夜に行動される方々だと思っていたのですが。

荒井 お酒も飲んだら顔が赤くなるし、顔もむくむのでほとんど飲みません。17時頃には解散します。

古田 日が沈むと同時に解散です。

荒井 時間が経つにつれ、肌がだんだん落ちてくるので、写真が盛れなくなってくるんですよ。だから、まず午前中のうちに写真を撮ります。

古田 あと、やはり午前中の光が一番盛れるので、写真も全部午前中に撮るようにしています。今回のこの講座の時間は一番盛れない時間なのですが。重力には逆らえないので、まだ耐えられる時間の内に写真を撮りきることが、この「盛り」旅のテーマでした。

荒井 こんな感じで「盛り」や物理に関して、勉強もしてるのです(笑)とりわけ奈々恵さんはとにかく徹底されるので、僕も毎回刺激をいただいています。今日は改めてその「盛り」へのこだわりについて詳しく教えてもらえるかと、楽しみにしてきました。

古田 喋りながらも、常に写真を360度撮り続けたりしています。大量の写真を撮って、後で見返して「ちょっと背肉がついたね」「姿勢が悪かったね」というのを研究し合う。もちろんちゃんと観光もしているのですけど、合間に「どうしたら盛れるか」を研究しながら旅をしています。

久保 とても面白い旅行ですね。奈々恵さんは海外にも頻繁にいらしていて、SNSに写真がアップされるのを私もいつも楽しみにしています。

古田 私は人物だけでなく風景と全て合わせて「盛り」だと思っています。旅行先の国ではその土地で一番豪華な場所に行くようにしていまして。七つ星ホテルなどを訪れ、泊まれるお金は決してないので、お茶したりその雰囲気を味わったりしています。

久保 現在55カ国にいらしているのですよね。どの国でも高級ホテルに行くという一つの基準があると文化比較ができて面白いですね。

古田 そうなのです。その国の物価もわかりますし。この前行ったブルネイの七つ星ホテルは、1泊2~3万位で泊まれたりします。そして、そこに滞在している人がどんな格好しているのかと人間観察をするのです。時間が経って場所が渋谷から世界に変わりました(笑)。

久保 なるほど(笑)。私も当時の渋谷に通っていた方々に色々お話を聞くことがあるのですが、みんな似たようなことは言います。昔はとにかく渋谷が一番だったから、そこを目指していた。でも今はもう渋谷に勢いがないし、かと言って日本に渋谷以上の街も無いから、世界に出て行くしかないと。けれど、世界のどこにどう出て行って良いのか、迷っている方が多いように思います。奈々恵さんの場合は、そこでまた次の目的をバシッと立てている所がすごいです。しかも、旅行先で綺麗にすることってすごく大変なことじゃないですか? 旅行では荷物も限られるので、私などはどうしても諦めてスニーカー1足で良いかなと思ってしまったりするのですが。

古田 青山に行くような格好で世界へ旅するというのが私の一つのコンセプトでして、世界の果てでも巻き髪とヒールで行くことを毎回欠かさずやっています。やはり写真は残るものですし。ウズベキスタンにも今日と同じような赤いドレスで行きました。

久保 確かに、旅行には時間もお金も多く使うので、それならば良い写真を残したいものですよね。写真も撮れないような格好で行くと、結局何も残らず、何も無かったことと同じようになっちゃいますから。

古田 そうそう。ギリシャのサントリーニ島に行ったときは、徒歩15分の距離を2時間かけて2,000枚くらい写真を撮りました(笑)。

久保 すごい(笑)。確かに、お写真を見ると、とても綺麗ですもんね。

古田 この時は、風景が白と青の世界でしたので、ピンクや赤の差し色を入れると映えるかなと。風景と対比する色を入れるか、もしくは風景と同化する色にするか。必ずそのどちらかにしています。

久保 予め「ここでこう撮ろう」というリサーチをされているのですか?

古田 はい、もちろん。その都市の風景写真を調べまして、行程表に「この街はこの服」「あの白い風景にはこの服で行く」というのを決めてから行きます。

久保 ロケハンして、その風景に合わせてビジョンを決めるということを、ネットを使って、お一人でこなしているわけですね。

古田 はい、自己満ですが。

久保 いえいえ。今だとインスタとかで公開されるとみんなで楽しめますからね。

荒井 奈々恵さんは、みんなで小旅行に行くときも分刻みでタイムテーブルを組んでくれるんですよ、「○時○分にこれに乗るんだ」とか「ここで写真撮る」とか。だから全部事前に計画が出来上がった上でやっていらっしゃる。

久保 写真も全て計算されて撮られているのですね。

荒井 はい。その時間だったら、ああいう写真が撮れるだろうとか全部計算して撮っています。

久保 雨の日はどうするのですか?

古田 雨の日は行かないですね(笑)。髪の巻きが取れるので。ただ、私の地元にお天気の神様が祀られている神社がありますので、そこでいつも「○月○日どこが晴れますように」と絵馬は書いています。なので、天気の神様には守られています。今、その神社には私の絵馬が3つくらい並んでいると思います(笑)。

一同 (笑)。

久保 風景と合わせて撮る写真は、どうやって撮っているのですか?

古田 現地の人が撮ってくれたり、タイマーを設定して走って撮ったりしています。

久保 以前、タイマーを使って撮られると聞いて、私もやってみたのですが全然うまくできないですよ。難しい。しかも、ヒールで走っているわけですよね?

古田 はい、1枚の写真を撮るために15分くらい苦労することもあります。

久保 そうなりますよね。「インスタ映え」に一生懸命な高校生にも、話を聞いているのですが、彼女たちも今はもう「他撮りが盛れる。自撮りはもうダサい」と言って、奈々恵さんのように人物だけなく、風景も含めた写真を撮るようになっています。他撮りで「キメ顔ではなくて自然体の自分を写したい」と。そうは言っても、うまく撮ってくれるカメラマンを連れていかれる子が付いている子などほとんどいなくて、その場にいる人にカメラを渡して適当に撮ってもらったりするようですが、なかなかうまくは撮ってくれません。それについて皆、悩んでいるようで「せっかくインスタ映えスポット行ったのにSNSに載せられる写真が撮れなかった」というような話も多く耳にするのですよ。

古田 私は写真を撮っていただく場合、その場所で「あの人良いカメラ持ってるな」というような人間観察をします。なので、写真のお願いをするのに数分かかることもあります。あとは、私から「良かったら写真撮ります」と言って、先に、様々な角度からカシャカシャ何枚も撮って、その後で、「同じように撮ってください」と。

久保 なるほど、コミュニケーション能力が問われますね。その辺は、これからのカメラの大きな課題だと考えています。ドローンなどの技術で解決できないかなど、勝手に色々考えています。なので、奈々恵さんがどのように試行錯誤されているのか、すごく興味深いのです。他にはどのようなことを意識していますか?

古田 海に行く場合、水着になることも多いですけど、最近は露出の少ない水着になりがちです。しかし、やはりギャルの魂としては、水着を派手にしたい。派手にすると、視線が案外、自分の身体ではなく、水着に集まります。さらに、帽子やヒールなどを使って、身体に視線がいかないよう分散させることをいつも心掛けています。同じように、柄に目をいかせるために、派手な服を着るようにも心掛けています。その他にも、日本人はどうしても仁王立ちになりがちなので、女性らしいカービーさを出すためにも、常にポーズでS字を意識したりしています。

久保 なるほど。見る人の視線をコントロールするって、視覚心理学ですね。そういう方法論はどうやって身につけていらっしゃるのですか?

古田 毎回1,000〜2,000枚撮っていれば、自分で見極められるようになっていくと思います。

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