連続講座『「盛り」の誕生 ー女の子のビジュアルとテクノロジーの平成史ー』第1回~(1)《MORI1.0》とは?


2019年4月から6月にかけて、著書『(「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』(太田出版)に沿った連続講座「『盛り』の誕生 ー女の子のビジュアルとテクノロジーの平成史ー」を、青山のスパイラルで開催しました。

講座では、「盛り」の歴史を大きく3つの期間に分け、第1回目は1990年代半ば以降の《MORI1.0》、第2回目は2000年代半ば以降の《MORI2.0》、第3回目は2010年代半ば以降の《MORI3.0》に焦点を当てました。各回では、当時を実際に体験した証言者たちをゲストに迎え、各時代の「メディア環境」と女の子たちの「盛り」文化との関係をひも解きました。ここでは、4月17日(水)に開催した第1回目の記録を、4回にわたって紹介します。
(第2回目と第3回目の記録はこちら→https://logmi.jp/events/1922

1990年代半ば以降の《MORI1.0》は「盛り」の概念が生まれた時期です。女の子たちはなぜ「盛り」を始めたのでしょうか?「盛り」の目的とは何なのでしょうか?「盛り」が普及するきっかけを作ったと考えられる、ギャルサークル「Angeleek」元代表の古田奈々恵さん、当時のギャル文化を社会学的に分析する学者であり、イベントサークル「ive.」元代表の荒井悠介さんをゲストに迎え、「盛り」の美意識に迫りました。

mori-no-biishiki-image1

■「あなたのプリ帳見せてください」

久保友香(以下、久保) 今日は「盛り」の美意識について話していきたいのですが、その前に、私が「盛り」という言葉がいつからあったのかについて調べたことから、お話します。このような女の子の流行り言葉のようなものは、雑誌から広まった可能性が高いと考え、最初にティーン雑誌を調べました。そこで、ギャル雑誌『Ranzuki』の2003年の11月号のプリクラの特集ページに、辿り着きました。当時はプリクラの撮り方のジャンルが多様化していた時で、「カップルプリ」「キスプリ」など様々ある中の一ジャンルとして、「盛りプリ」というものが載っているのを見付けました。これがおそらく雑誌の中では最初だと思い、当時『Ranzuki』編集長を務めていらした方にお話を聞きに行きました。すると「『Ranzuki』は女の子たちが使っている言葉を拾い上げて発信をしていたので、おそらくその頃すでに女の子達が使っていたのではないか」と教えてくださいました。そこで今度は、女の子たちに話を聞くことにしました。

ここで一旦、私の研究資料として欠かせない「プリ帳」についても、お話したいと思います。プリ帳というのは、プリクラのシールを貼っている手帳のことです。私は取材などで女の子に会う度に「プリ帳持ってる?」と聞いていて、できれば見せてもらっています。何故かというと、プリ帳の中には、顔写真のみならず文字も書き込まれていて、その時の流行語がわかります。プリクラはお友達と一緒に撮ることが多いので、コミュニティの構造が見えたりもします。プリ帳には、プリクラを貼るのみならず、お友達とやりとりした手紙が挟んであることも多いです。プリ帳は、雑誌などからは知ることのできない女の子達の情報が詰まった、とても貴重な研究資料なのです。

話を戻して、雑誌『Ranzuki』で「盛り」と言う言葉を見つけた2003年頃に絞り込み、その当時高校生だった方にプリ帳を見せてもらいました。その中で「盛り」が一番古く登場したのが、2003年8月頃。「盛れてる」「盛り盛り」など初めて「盛り」という言葉が、しかも3回も出てくるページがありました。この頃から広がり始めたことが予想つきました。その方に「盛り」という言葉がいつからあったかを聞くと、「サークルではすでに広まっていて、みんな結構使っていました」と応えました。しかし、同時期に高校生だった他の方にもプリ帳を見せてもらったのですが、そこには全く出てきませんでした。そこで、彼女が言った「サークル」という存在に焦点を当てました。「サークル」の中で影響力のある人が誰であったかを聞くと、「人物ではないけれど、サークルとして『Angeleek』が影響力を持っていました」と言いました。その言葉をもとに、ネットなどでリサーチをしているうち、どうしても気になる人物が浮かび上がってきました。それがこちらにいらっしゃる古田奈々恵さんだったのです。

私は直観的に奈々恵さんがキーパーソンだと思い、最初は躊躇したのですが、思い切ってSNSのダイレクトメールで「プリ帳を見せてください」とお願いをすると、快く受けてくださいました。そしてついにお会いすることができたのですが、その時、奈々恵さんがプリ帳と共に持ってきてくださったものがあり、それが「イベントパンフレット」です。ページをめくっていくと、なんと「モリプリ」という言葉を見つけました。「この『モリ』は、あの『盛り』ですか?」と聞くと、「あの『盛り』です」と奈々恵さんは応えました。発行日を見ると、2002年9月22日。編集長を務めた奈々恵さんを中心に、2002年夏頃に作られたものであるということでした。これは先程の『Ranzuki』よりも1年以上も前の話になります。奈々恵さんは「その前からあった気がします」と仰っていましたが、私が調べる限り、活字で明文化されているという点で、一番古いものでした。サークルの中でも特に影響力を持っていたという『Angeleek』が、とても早い時点に「盛り」という言葉を明文化しているという事実から、これが「盛り」という言葉が広がるきっかけになったのではないかということが予想できました。

それで、まずは「サークル」についてもっと知りたいと思いました。そこで手に入れて勉強した本が『ギャルとギャル男の文化人類学』(新潮社)であり、その著者がここにいらっしゃる荒井悠介さんです。「サークル」というのは、学校の枠を超えた高校生や大学生のコミュニティです。こういった「若者のコミュニティ」と「盛り」には、とても深い関係性があるので、そこについてお話していきましょう。

→次へ


1 2

page top