オンライン・アイデンティティのクリエーター 中川友里さん


6. “個性”と“流行”のミックス

彼女は「個性」を表現することにこだわるが、ネットで公開している写真を見れば、ただ独創的というわけでもない。

「自分らしさも出したいけれど、トレンドにも乗っかりたい。欲張りなんです。」

彼女の変身のメニューの中では、今どきの女の子たちが共有してい理想としているようなスタイルもある。

 

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「学生時代から、ファッション誌は、モード系から、原宿系、ギャル系まで大量に読んでいます。全て読むことによって、パリやミラノのコレクションで発表されたものが、どのように流れていくかわかってきます。流れ流れて、日本のギャル系ファッションに取り入れられる時、どういう変形がされるのかなど調べています。そしてそれが展示会で何万枚も売れたと聞けば、人が乗っかりやすいものとはどういうものかなと分析しています。」

彼女の舞台の中心はインターネットだが、流行の調査には雑誌も使って、丹念に分析している。

「そして人が一番乗っかりやすいものに、私もあえて乗っかってみたりするんです。完全な流行に従うのも私にとってコスプレの一つ。」

 

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彼女はこのように、様々な手段を使って社会を察知し、それをファッションに反映させる。それが時にクリティカルな表現になることもある。

「日本は、自由にファッションを楽しむことに、制約が多いと思います。著作権の問題もあります。例えば台湾の『PetShopsGirl』というお店はグラフィックが強い服があって好きなのですが、アーノルド・シュワルツネッガーの顔を勝手に使ったり、日本だったら絶対怒られそうな服があるんです。私はそういうすれすれなものも、海外から取り寄せて着ています。」

 

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彼女は早いスピードで表現をしながら、どのように情報収集をしているのか。

「これいいなと思う画像を見つけると、iPhoneの中にどんどんと保存していっていって、自分のファッションの参考イメージにします。」

iPhoneに保存されている画像を見せてもらうと、ファッション写真があるのかと思えば、意外にもただの人工物の写真が多い。

「無機質な感じのもの、化学的なものが好きなんです。とくに透明なものが好き。」

そこには「流行」とは関係のない、彼女独自の世界観がある。

もし、彼女にしかない「個性」的な世界観だけをインターネットで発信していれば、多くの人がアクセスするきっかけを得ていないかもしれない。逆に多くの人が乗っかりやすい「流行」だけでも、人の目にはつかない。彼女のSNSに多くのフォロワーがいるのは、「流行」と「個性」を融合させているからではないかと思う。


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