オンライン・アイデンティティのクリエーター 中川友里さん


3. “遊び”もつきつめれば“仕事”になる

インターネットでの情報発信に力を注いでも、それが直接、収入に結びつくことはほとんどないと、普通は考える。

彼女がセルフディレクションする写真も、もちろんネット上で無料で公開する。撮影にかかるお金は、自前である。

「カメラマンさんやヘアメイクさんとはお金をやり取りしません。それぞれ自分が関わる部分を負担しているということになります。それぞれ自分の作品としてプロモーションに使うので。企業からのお仕事で撮った写真は、著作権が企業にあるので、自分たちで勝手に使えないから。」
 

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このようなクリエーション・ネットワークは、どのように生まれるのか。

「パーティーやお食事の席で一緒になったカメラマンさんと、『今度おもしろいの撮りたいですね』とか『今度こういう撮影しようよ』と話になるのをきっかけに、その後メールなどでイメージ写真を送ったりして、お互い仕事のない日に撮影しようということになります。」

あくまでも“仕事”ではなく“遊び”である。

「“仕事”だったら撮影前に決めたイメージ通りに撮ることを目指すけど、“遊び”だからお互い“実験の場”にしていて、そこから予想外の化学反応が起こるかもしれないと考えることが一番の楽しみです。そして最初のイメージよりも先にあるものにたどり着いたとき、“やったー”ということになる。」

 

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“遊び”だからこそ、“仕事”では到達できないクオリティがある。そして“遊び”で作った作品が、“仕事”に変わることもある。

「写真をネットで見たヘアサロンから、看板に使いたいという依頼が来たこともあります。バッグのブランドから、広告に使いたいというお話をいただいたこともあります。自分の撮りたいものを撮った作品に、そういう評価をしてもらえるとうれしいです。」

そもそもブロガーという活動も、そこから直接収入があるわけではない。アフィリエイトなど、ブログの中で企業の商品の宣伝をして収入を得る仕組みもあるが、彼女はそれを良いと思っていない。

「そういう仕事をやったこともあるけれど、自分が本当に良いと思っていない商品を良いと言うことはできません。読者に失礼になるので。」

今は、ファッションブランドの展示会やコレクションに出席し、そこでの取材記事をブログに書いて、報酬をもらっていると言う。展示会やコレクションの取材記事をブログに書く事は、彼女がもともと報酬がなくても行っていた作業だが、ブログに人が集まるようになったことで、その情報発信力にお金が支払われるようになった。

インターネットは、クオリティが低い、未完成のコンテンツでも公開できるのが取り柄だ。しかし、クオリティの高い、完成度の高いコンテンツを公開することで、人が集まり、収入につながることがある。そして本当に魅力的なコンテンツは“仕事”よりも“遊び”から生まれることがある。


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