オンライン・アイデンティティのクリエーター 中川友里さん
2. オンライン・アイデンティティのクリエーター
今、多くの人が、現実世界とパラレルに、ネット世界のアイデンティティ(=オンライン・アイデンティティ)を持つようになっている。
オンライン・アイデンティティを決定するのは、ネットに公開される本人の写真である。中川友里さんはそこで多様な変身を見せる。本物の彼女はいったいどれなのかと、見る者を惑わすくらいである。
とくに大きな変身を見せるのが、彼女がセルフディレクションしたファッション写真の上である。
「仕事での撮影とは全く別に、自分が撮りたい写真を撮ります。自分をプロモーションするブックに載せるための“作撮り”ですが、ネットでも公開します。」
セルフディレクションする撮影では、カメラマンさんと協働、時々ヘアメイクさんとも協働するが、その他は全て、衣装も、小物も、セットも彼女自身で準備する。しかも既製品を用いず、自作することが多い。
「例えば、この写真は、髪の毛が個体から液体に状態変化する瞬間を切り取りたいと思いました。」
まずは頭の中にイメージを描く。
「スライムを作るため、洗濯のりとホウ砂と絵の具を買ってきて、撮影前日、夜な夜な練りました。あと、オーロラフィルムを買ってきて、それをクラッシュさせて、カメラのレンズのまわりに付けさせてもらいました。光を乱反射させて、ベールをかぶせたように撮りたかったからです。材料はいつも100円ショップへ見に行って、無ければ東急ハンズ、手芸屋さんなど行って揃えます。」
下記のWEBサイトを見れば、彼女の他のセルフディレクションの写真も多数見ることができる。
http://darayunya.blogspot.jp/
そのほとんどが、このように彼女の手作りで作られている。
しかしこうした制作は、経験知がないとできないはずだ。彼女がそれをなんなく行うには理由があった。
「もともとコスプレが好きなんです。高校生くらいからやっていて、大学の学園祭の時も、毎年、何かしらのコスプレをして、カラオケ大会に出たり、模擬店をやったりしていました。綾波レイなんかもやったことあります。大学4年生くらいからは、キャラクターの格好ではなく、オリジナルのコスプレを始めました。この花魁の格好をした写真などはその頃のものです。」
彼女のファッションの源流には、コスプレがある。実は、原宿系ストリート・ファッションのリーダーたちには、かつてコスプレに親しんでいた人が多いと言う。
「当時は友達と2人でスタジオを借りて、やるなら本気の作品にしたかったので、プロのカメラマンさんを頼んだりしました。友達は私とやりたいものは違ったけれど、2人でスタジオ借りた方が安いから、それぞれ2個ずつ撮りたいものを考えてくるなどして、スタジオとカメラマンさんを頼むのに1回5万円くらいだったから、1人はその半分。一回の撮影は貴重だから、企画をよく練って、準備を入念にしてのぞみました。」
衣装もセットも自作し、できる限り低コストに、できる限り本格的に撮影するのは、コスプレで培われたノウハウだったのだ。彼女がネットで多様な変身を見せることも、コスプレの延長だと考えると理解しやすい。コスプレのモチーフを、漫画やアニメのキャラクターから、今では自分の頭に描くイメージへ変えて、クリエーションする。彼女は「オンライン・アイデンティティのクリエーター」だと私は考える。