連続講座『「盛り」の誕生 ー女の子のビジュアルとテクノロジーの平成史ー』第1回~(3)「盛り」という言葉が生まれた背景


■「あの時が一番良かったね」とは言わせない

久保 荒井さんのサークルではどうでした?

荒井 奈々恵さんのサークルと文化は大体似ていますが、もう少し求めるものに男の子の不良文化的な要素が強いかもしれません。うちのサークルは、多くのサージンたちが目指す、一番であり続けようとしていました。全国の合同イベントでの筆頭や、単独イベントの一番の集客数など、大きな事実を証明できること。これに加えて、メンバーの質、客層、イベントを開くクラブのブランドなどの数限りない諸々の評価、そして先ほどの価値観に根差した威信も総合した上で、その時代の一番とされるイベサーであることです。同じ系列の『Angeleek』という超強めなギャルサーの存在にも、それを支えてもらっていたと思います。

ただ、うちは総合力が必要だったこともあり、『Angeleek』ほどコンセプトが「強め」に特化していたわけではなく、様々なジャンルがいました。ただし、洗練されていることを求めるのは、『Angeleek』と同様です。元々の素質や経歴があった上でという前提はありますが、肌を焼いてギャル男系でもいいし、ホストやスカウトマン系でも、不良っぽくても良いのです。メンバーにも「イケてればなんでもいいので」と言っていました。先ほど述べさせていただいた、「強め」「チャラい」「オラオラ」に結びついた形で洗練された形ならなんでもいいということですね。ただし、洗練されていることには、こだわっていました。だから、雑誌をそのまま鵜呑みにせずに、渋谷で最先端のこなれたイケテルファッションをしてくださいと。なので、美容院や買い物に連れ出したり、ブランド品をあげたりして全体の底上げをしていましたね。そういうことは、どこのサークルでもしていたと思います。

古田 荒井さんのサークルはみんな同じ美容院に行ってましたよね。

荒井 はい、そうですね、とりわけ僕のグループの大半は吉祥寺の『バース』に通ってました。

久保 そこは渋谷ではなくて吉祥寺なのですか?

荒井 はい。『バース』にはメッシュを流行らしたカリスマ美容師のセイジさんという方がいらっしゃって、僕たちにとてもよくしてくださっていました。セイジさんは、ストリートの不良ファッションやマインドにも造詣が深い方で、天才的なセンスを持った方でした。その方がビジュアルコンセプトに関しても親身に相談にのってくださり、一人一人のキャラクターに合った形でイケてるヘアスタイルにしてくださっていました。

久保 なるほど。共通するのは「中途半端はダメ」ということですね。ビジュアルだけではなく、マインドの面でも。

荒井 当時沢山のサークルがありましたが、特に『Angeleek』には中途半端な人があまりいなかった印象ですね(笑)

古田 辞めてしまうか、そもそも面接の段階で落ちていると思います。

久保 面談では、どういう基準で採用していたのですか?

古田 パギャルでも、ギャルになる要素や努力する要素があるかを見ています。自分のお金をかけて日サロや美容院に行く意思があるかをまず見たりしますね。もちろんマインドでは先程お伝えしたような、「チャラくない」「上下関係を重んじる」というところが一番大事です。

久保 メンバー内で、結構厳しく評価し合うのですか?

古田 すごく厳しいです。私も毎日先輩や後輩から言われてきました。「肌が白い」「服がダサい」「ギャル度が足りない」とか。お金もかかる中で、そういった先輩後輩の目にも耐えられるかだと思います。

荒井 僕も一つ覚えていることがあります。2002年の夏、HMVの前で奈々恵さんがイケてるお姉系ファッションをしている時があって。僕に諦めたような笑顔で「アンジェ(『Angeleek』)だからさ……ギャルじゃなくちゃいけないんだ……」とボソッっと言ったんです。その後、日サロに行ってる奈々恵さんを見て「気合入ってるな、おれも頑張らなくちゃ」と思ったことがあります。

久保 サークルを超えて刺激し合って皆で高め合っていたわけですね。

古田 そうですね。SNSも無かった当時だと「2ちゃんねる」でものすごく叩かれました。センター街を歩いてるだけで「プリクラと違う」「デブじゃん」とか書かれます。辛くて落ち込むのですけど、それをバネにもっと上のギャルを目指していこうと思うのです。

久保 当時綺麗にしていた方は今も綺麗だと聞くのですが。

荒井 はい、僕らの世代の人たちは今も外見がすごく綺麗です。うちの系列の場合、美容系の仕事をしている人も多いので、イケテル美容外科医のお友だちがレーザー治療をしてくれたり、ボディメイクしてくれたりと、ちょっとあれ?ってなると皆が助けてくれるのです。

久保 今でも助け合って(笑)。

古田 今はSNSを見て少し太ったりすると「ちょっと太ったよね」と言われます。だから2002年当時の「『Angeleek』の時が一番良かったね」「あの時から15年経って劣化したよね」と言われぬよう、みんな努力し続けているのが今に至るのかなと。決して美人ではないのですが、美意識は保っているのではないかなと思います。

久保 当時は渋谷に行かないと毎日刺激を受けられなかったのが、今はSNSを通じて常に刺激を受けられるように進化したのですね。いいのか悪いのかは別として。

(4) ギャルの美意識と「粋」に続く


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